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 しかし、私は、このイートンでの自分のあさましい乱行――学校の目を巧みにのがれながら、学校の規則などものともしなかった乱行――をいちいちたどって書こうとは思わぬ。愚行の三カ年は、ただ私に悪徳の根ぶかい習慣をつけ、またちょっと普通以上に私の背丈を伸ばしただけで、なんの得るところもなく過ぎ去った。が、そのころ、一週間もめちゃくちゃな放蕩(ほうとう)をしたのち、私はもっとも放縦な学生の数人を自分の部屋での秘密な酒宴に招待したのであった。私たちは夜がよほど更(ふ)けてから集まった。自分たちの乱行をまちがいなく朝までもつづけるつもりだったのだから。酒は豊かに満ちあふれていたし、それ以外のおそらくもっと危険な誘惑物なども欠けてはいなかった。というわけだったから、私たちの有頂天の乱痴気騒ぎがその絶頂に達しているうちに、東の方ははやかすかにほんのりと白みかかっていたのだった。骨牌(かるた)と酩酊(めいてい)とのために狂ったように興奮して、私がまさにいつも以上の不埒(ふらち)な言葉を吐いて乾杯を強(し)いようとしていたちょうどこのとき、とつぜん自分の注意は、部屋の扉が少しではあるがはげしく開かれて、外から一人の小使がせかせかした声で呼んでいるのに、逸(そ)らされた。彼は、誰か急用のあるらしい人が、玄関のところで私に会って話したいと言っている、と告げた。
 ひどく酒に酔っぱらっていたので、この思いがけない邪魔が入ったことは、私を驚かせるよりもむしろ喜ばせた。すぐさま私は前へよろめいてゆき、五、六歩歩くとその建物の玄関へ出た(8)。その低い小さな室(へや)にはランプは一つもかかっていないので、そのときは、一つの半円形の窓から射(さ)しこんでくるごくかすかな暁の光のほかには、光はぜんぜん入っていなかった。その室の閾(しきい)をまたいだとき、私は自分と同じくらいの背の高さで、自分がそのとき着ていたもののように最新流行型に仕立てた白いカシミヤのモーニング・フロックを着た、一人の青年の姿に気がついた。それだけのことは、そのかすかな光で認められた。が、彼の顔の目鼻だちは見分けることができなかった。私が入ってゆくと、その男は急いで私の方へずかずかと歩みよって、怒りっぽいじれったそうな身ぶりで私の腕をつかみながら、私の耳もとで「ウィリアム・ウィルスン!」とささやいた。
 私はたちまち、すっかり酔いがさめてしまった。

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